オオカミ王ロボ

ロボがひきつれているオオカミの群れは小さなものだった。これは私にはまったく理解できないことだった。なぜならロボほどの実力と立場にのしあがった狼なら、普通は無数の手下がついてまわるものだからである。ロボはふだん自分で望むだけの手下しか集めなかったのだろう。あるいはロボの激しい気性が、群れのメンバーが増えるのをさまたげていたのかもしれない。とにかくロボの生涯の後半には、たったの5頭しか手下を連れていなかったことがわかっている。(シートン動物記 狼王ロボ シートン 藤原英司訳)

オオカミの群れは家族

オオカミは群れで生活します。「群れ」という概念にもいろいろなものがありますが、オオカミの場合は、群れの構成員は父、母、兄弟姉妹の「家族群」です。

ツガイのペア、つまり長期間固定した関係を結ぶ両親と、その間に生まれた1年目の仔オオカミ、2年目の仔オオカミが基本的な構成です。仔オオカミは3年目を迎えると生まれ育った家族群を出ていくことが多くなります。まるで人間のように、幼児から中学、高校までは家で養われ、高校を卒業して大学に入学すると家族から離れて独り立ちし、放浪の後、配偶者と出会って家(ナワバリ)を構えます。この家族群で一定の面積のナワバリを維持し、獲物を確保し、子育てをします。

平均8頭の群れ

産まれる仔は、一腹が平均5~6頭ですが、全部が育つことはほとんどありません。病気や事故、両親が獲物をとれなくてエサを食べられない期間の飢餓などで1年たつと半分になってしまうのが普通ですから、1年目の子供が3頭、2年目の子供が3頭としましょう。合わせて8頭ということになります。アメリカ・ミネソタ州のオオカミ生息地での群れの頭数が平均で6~8頭程度ですから、基本的な構成はおおよそこのくらいの頭数でしょう。

獲物のサイズで変わる群れの大きさ

追いかける獲物のサイズによっては、もう少し多くなることもあります。それは例えば北米大陸の北のほうでムースと呼ばれる体重800キロにもなる大型のシカを主に追いかけているような場合は、もう一世代が残って加わることもあるようです。外部から、人間でいうと婿のような存在が観察されることがあります。どうしてそうなるのかという解明はまだのようです。

掲載写真は、イエローストン国立公園の群れです。ここには大型のシカ(エルクあるいはワピチ)とバイソンがいますので、獲物を一頭倒すとエサも多いため、家族構成はミネソタより多くなることがあります。


順位制の見方は間違い

オオカミの群れについて、「厳格な順位制がある」と解説されることがよくあります。ところがこの見方は、最近になって親子関係を基本とするという見方、に大幅に修正されるようになりました。順位制という見方を主張していたのは飼育下での研究者、家族群という見方を主張するのは、ミーチ博士のような野生下でのオオカミ研究者です。飼育下のオオカミは、しばしば限られた場所での不自然な構成の群れをつくり、その観察を通じて力関係や年齢、性別による順位制があると見てきたのですが、それを野生下での観察が覆しているのです。

子育て行動

オオカミの家族群内では、メンバー全員が協力して子育てをします。離乳期の仔オオカミにエサを運んでくるのは、母親と父親だけではありません。2年目の子供も両親についていった狩の獲物を持ち帰り、弟妹たちに与える役割を果たします。

飼育されているイヌが仔を産んだときにもその本能が残っているのがわかります。仔犬が母犬の鼻づらをペロッとなめると、母犬は食べたものを吐き出してしまう条件反射があり、その吐き出した肉を仔犬に与えます。父犬も年長の兄弟姉妹も同じように条件反射してしまうのです。


オオカミ王ロボの群れは家族だった

オオカミは上記のような群れを構成しますから、冒頭に掲げた「狼王ロボ」の記述はまったく間違いだということがわかります。ロボとその屈強な手下、というイメージは、当時西部のアウトロー集団の姿が投影されたものだったのでしょう。ロボの物語が発表されておよそ10年後に、初めての西部劇映画が制作されています。

オオカミを主人公とした昔の物語なども、実際のオオカミの群れではなく、イヌの行動をもとに想像したオオカミの群れを描いています。